木村明子さん、昔住んでいた街を思い出散歩

2016-02-182016-02-16 jesca 2483 Views 0 Comment

　消しゴムはんこ作家・木村明子さん（くま五郎本舗）の連載「木村明子のさんぽではんこ」をお届けします。（毎月18日頃更新予定）

　花粉が飛び交う季節となりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。千葉県を拠点に活動している消しゴムはんこ彫り、木村明子と申します。

　「木村明子という人物が各地を散歩してはんこを作る」というこの連載、今回は「千葉のとある街」を散歩してまいりました。その「千葉のとある街」には１０年以上住んでおりました。今回は思うところあって「子供の頃に住んでいた街」を巡る散歩となっております。

　その街で住んでいたのは１０棟以上並ぶ団地の一角でした。一階の角部屋で、とにかくじめじめとした家だったことを覚えております。１階なので庭付きだったのですが常に草がぼうぼうで、天井に大きなカマキリがしがみついていたり、お風呂にコオロギかクモ、あるいは両者が揃っていたことも日常茶飯事でした。

　ある日、母がシンクの前で「シメジに似たきのこ」を見つめ悩んでおりました。庭のひときわじめじめと暗い片隅に生えていたそうです。子供の私の目から見ても、その「シメジに似たきのこ」はシメジではありませんでした。普段は割と個人プレーが多い家族だったのですが、この時は全員一丸となって止めました。しかしなぜか母はかたくなに「食べる」と言い張り、その説得には結構な時間がかかりました。

　つい最近、そのことについて母に「覚えているか」とたずねたところ、きれいさっぱり忘れておりました。ただ、大人になった今になって、あの時「食べる」と言い張った母の気持ちがなんとなく分かるような気が致します。あれはたぶん、「もったいない」とか「お金がない」ではなく、「冒険心」です。

　そんなことを思い出しながら住んでいた家の前を通り過ぎてみました。日差しが暖かい日でしたが、日陰はやはりじんわりと寒そうな印象でした。

　思い出の家から離れて少し歩くと路面店が並ぶ道があります。子供の頃、そこにある雑貨屋さんや文房具屋さんに足しげく通っておりました。そのほとんどのお店がなくなっている中、１件の自転車屋さんが変わらず営業しておりました。

　その自転車屋さんの店内はいつも雑然としており、売っている数台の自転車は少し汚れていてしかし値段はお高めで、子供心に「このお店の自転車はいつ売れているのだろう」と思っておりました。今回、びっくりするほど当時と同じたたずまいをキープしているお店を見て感動すら覚えました。私のようなものには分からない、何か特殊で鉄壁の商売ノウハウがそこに存在するのだと思います。「長く経営できるコツ」などの講義を開いていただけるのであれば、ぜひ行ってみたいです。

　自転車屋さんの前を通り過ぎてしばらく歩くと、通っていた中学校が見えてまいります。校庭を見ると体育の授業中でした。着ているジャージが私の頃と違うところに歴史を感じました。

　サッカーボールを追って延々と走り続ける中学生男子たちを見てしみじみと「若いなぁ」と感じましたが、よく見ると指導している先生までもが私よりもはるかにお若く、もうねぇ、アレですよ。なんだか全然分かりませんが「とりあえず明日も生きよう」という気持ちになりました。ありがとう、見知らぬ若者達よ。おばちゃんも頑張るよ。

　「子供の頃に『ものすごく広い』と思っていた場所が、大人になって訪れてみるとそんなに広くない」ということがあると聞きます。私が今回見た中学校の敷地は、私の記憶とほぼ同じ大きさでした。中学の頃からそんなに背が伸びていないからかもしれません。当時の私は身長が１５５cmもなく、また球技が苦手だったにも関わらずバレーボール部に入っておりました。当然のことながら万年補欠でした。大変厳しい部で休みは盆暮れ正月くらいしかなく、なのにどんなに練習してもちっとも上達しない自分が嫌でした。今でも当時の部活動のことを思うと胸が「きゅっ」となります。もし過去に戻れるならば、「おまえはバレーボールにはむいていないから別のことをおやり」と言ってあげたいです。

　このように、古い記憶を探る時、ぴかぴかした甘い思い出もあればダークにほろ苦い思い出もあります。今回、昔いた街をぶらりとしてみて色々なことを思い出した結果、現在の私がいかに穏やかに生きているのかを実感できました。もし皆様の「思い出の街」が比較的近くにあるのなら、たまにはぶらりとしてみるのもよろしいのではないかと思います。現在に通用する何かを得られる可能性が、あるかもしれません。

　さて、ここでひとつお知らせがございます。丸２年間やらせていただいた木村明子の「さんぽではんこ」は、今回を持ちまして一旦休止とさせていただきます。ただ、「散歩をしてはんこを作る」という経験は大変楽しいものでしたので、またいつかやらせていただけたらと思っております。

　そして次月から、新しいテーマで連載をさせていただく予定となっております。テーマは変わっても「ゆるり」とした内容は変わらずキープしていけたらと思っております。もしよろしければこれからもお付き合いいただけたらと思います。

　ではまた!!

今回のお散歩：５,２９８歩

★連載2周年記念プレゼント企画！くわしくは木村明子さんブログ＆Facebookページまで！
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